ザンビアの港町ムプルング。
ザンビアに入国後、旅の無事を祈りあって船内で同室だったカールとはお別れ。
なんとなく雰囲気でお互い気ままなひとり旅タイプの旅人であることがわかっていた。
僕はいつものように行き当たりばったりで見つけたゲストハウスにチェックイン。
その夜。
暗い。
僕は仕方ない場合(夜到着してしまったとき等)を除いて、危険を避けるために夜は出歩かないようにしている。
この時はゲストハウスの付近だけ、と少しだけ外に出た。
そうしたらあんなに暗いのに、
「ヘイ!!そこのムズング(白人)!!」
と遠くから大声で呼ばれた。
ので焦ってブレた写真。
夜の暗さと僕の動揺がにじみ出ている。
もちろん絡まれる前にすぐゲストハウスへすたこらさっさと逃げ帰った。
翌朝、裏庭のようなスペースで衣類を洗濯していたらゲストハウスの掃除夫のおっちゃんと仲良くなった。
僕が適当にざぶざぶごしごししていると、
「そんなんじゃ甘いぜ。貸してみな。」(←たぶんこんな様なことを言ったのだと思う)
と僕の衣類を横取りし猛烈な勢いで洗い出した。
手慣れた手つきでワイルドに洗濯し、干し終え満足気なおっちゃん。
ただ、僕の価値観から見るとすすぎと脱水が全然足りてない。
せっけんで泡立った水がポタポタしたたっている。
せっかくの好意をフイにしては悪いのでその場は
「ありがとう。さすがだ。」
と言っておき、後でザッとすすいでしぼって干しなおした。
洗濯の手法はともあれ気の良いおっちゃんだった。
でもこの辺の洗濯はあれがスタンダードなのだろうか。
バカでかい湖のほとりにある町だから水不足って訳でもないだろうに。
それから町を散策に。
気が向いた方向へ歩いて行くと、地元の漁師さんたちが出入りする港に行きついた。
近くの小さなお店でジュースを買い、砂浜に座ってしばらくそのあたりを眺めていた。
僕が珍しいのか十数人の子供たちが遠巻きに取り囲んでこっちを見ている。
夕闇も迫ってきたことだしそろそろ帰るかな、と立ち上がり子供たちに現地の言葉で「さようなら」(サラニ・ブウィノ)と言って歩き出した。
見慣れない東洋人の口から出た現地の言葉に子供たちは驚くとともに嬉しそうにクスクス笑っていた。
僕は可能な限り旅をする国の言語で
「こんにちは」
「ありがとう」
「さようなら」
を何と言うか事前に調べておく。
ささやかでもその国に住む人へ敬意を表したいと思って。
(ザンビアの現地語はゲストハウスの猛烈洗濯おっちゃんに教わっておいた)
それがさも当然であるかのような顔をして、英語で現地の人に話しかけることはしたくなかった。
僕が歩いて立ち去る後を2人の可愛らしい小さな姉妹が少し距離をとってついてきた。
純粋な好奇心からだろう。
2人とも澄んだ眼をしていた。
僕が立ち止まって振り返ると小さな姉妹も微妙な距離を保って立ち止まる。
「サラニ・ブウィノ(さようなら)」(僕)
「サラニ・ブウィノ(さようなら)」(小さな姉妹) (嬉しそう)
僕が歩き出すとまだついてくる。
振り返ると向こうも立ち止まる。
「サラニ・ブウィノ(さようなら)」(僕)
「サラニ・ブウィノ(さようなら)」(小さな姉妹) (やっぱり嬉しそう)
歩き出すとやっぱりまだついてくる。
「さようなら」と言い合ったのに、その意味をまったく意に介さず嬉しそうに後をついてくる2人の小さな姉妹の姿は微笑ましく可笑しかった。
「さようなら」と言い合ったけれど「さようなら」ではなかった。
しばらく歩いては立ち止まり、何度かこのやりとりを繰り返した。
集落の切れ目を過ぎると、とうとう小さな姉妹はついてこなくなった。(ここから先へは出ちゃいけないと親から言われているのだろう)
僕だけが歩き続けて2人との距離が離れると姉妹の姿はより一層小さく見えた。
でも2人はまだこっちを見ていた。
僕は最後にでっかい声で
「サラニ・ブウィノ!!(さようなら)」
と言って大きく手を振った。
距離があったので、小さな姉妹が最後も嬉しそうな顔をしていたかどうかは、わからなかった。