有機?無農薬? ~表示のハナシ~
こんばんは、出荷を終えたら雨が降ってきたので、野菜を入れる袋にシールをペタペタ貼っていたミカミです。
今日はこのシールにある
『栽培期間中、農薬・化学肥料 不使用』
という“表示”についての話。
当農園では農薬と化学肥料を一切使用せずに野菜を生産しています。
それは“一般的に”言うと、有機農法により生産された有機野菜です。
(“一般的に”という表現は曖昧さを含んでいますが、あえて使用しています。)
しかし、販売する際に『有機野菜』と“表示”して売ることはできません。
なぜか。
有機JAS認証を取得していないからです。
以下、農林水産省のホームページからの引用です。
有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、その結果、認定された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。
この「有機JASマーク」がない農産物と農産物加工食品に、「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています。
これは2001年に改正されたJAS法により定められています。
この法律ができた経緯を短く要約すると、
基準が曖昧なまま「有機」、「減農薬」などの表示が氾濫して消費者が混乱したから。
そしてこのJAS法が定めた有機農産物の生産方法の基準は、
・ 堆肥等による土作りを行い、播種・植付け前2年以上及び栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと
・ 遺伝子組換え種苗は使用しないこと
となっております。
「有機」と表示するためには、これを証明するために、
生産行程に関する管理の記録
格付に関する管理の記録
JASマークに関する管理の記録
ほ場の一覧
種苗の一覧
資材(肥料、土壌改良資材、農薬など)の一覧
機械・器具の一覧
施設の一覧
などなどの書類を作成し、認定機関へ提出する必要があります。
それから有機JAS認証取得の費用について。
長崎では例えば長崎県食品衛生協会が承認機関となっており、その費用はこちら、
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/yuuki_tesuryo_16.pdf
抜粋します。
計算例1)有機農産物認定申請で実地検査が1日必要な場合
①+②×1日+④+⑤=251,200
はい、実地検査が1日の場合で25万円を超えてきます。
2日かかる場合や有機加工食品も申請する場合はさらに費用がドドンと跳ね上がります。
実地検査が1日の場合でもまだ終わりではありません。
上部にある「1.認定手数料の額」の横を見てください。
(交通費、出張経費は含まれていません。別途請求)
と書かれています。
はい、検査員の交通費と出張経費が25万1200円とは別途で請求されます。
単刀直入に申し上げてやってられません。
とまあこのとおり有機JAS認証制度とは、煩雑な書類作成とかなりの費用負担を有機農家に一律がっつり負担させる制度となっています。
その構図は本来の有機農業の理念と相反するものでもあります。
それゆえ、実質、有機JAS規格に該当する(もしくはそれ以上の)有機農産物の生産者でも、有機JAS認証を取得していない、ということが数多くあります。
偽物を規制しようとしたら、本物にまで背を向けられてしまった。
といった芳しくない結果を招いていると言えるでしょう。
ちなみに『無農薬』という表示も平成19年に改正された「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」によって禁止されています。
(「減農薬」「無化学肥料」「減化学肥料」の表示も禁止)
http://www.maff.go.jp/j/jas/jas_kikaku/pdf/tokusai_qa.pdf
Q6を見てください。
この長文を可能な限り短く要約すると、
「無農薬」は“生産過程において”農薬を使用しない、
という意味の表示であったのに、
消費者からは“土壌に残留した農薬や飛散してきた農薬を含め”一切の残留農薬を含まない、
という意味に誤ってとらえられていた。
「無農薬」が「有機」という表示よりも優れていると誤認していた消費者が全体の6割以上もいた。
という理由から「無農薬」という表示が禁止されました。
まあ、全然周知されておらずはっきり言って野放し状態ですが。
こういった訳で、当農園の野菜には
「有機」でも「無農薬」でもなく、
Q6の6.に示されている内容を律儀に守り、
「栽培期間中 農薬・化学肥料 不使用」
という表示がされています。
「有機JAS認証制度」が導入されたのは消費者が混乱していたから。
「無農薬」という表示の禁止は消費者に誤解を与えていたから。
それらを解決するために国は上に記した2つの策を講じました。
しかし実際のところ、1つの混乱が別の形の混乱に姿を変えただけという結果になっています。
その姿を変えた混乱が、有機農家として新規就農した僕たちに象徴的にふりかかる事件が勃発したのですが、長くなりすぎたのでそれについてはまた次回。